「涙滴型の方が自然じゃないの?」その疑問にお答えします
豊胸手術をお考えの際、多くの方が「バッグの形」について疑問に思われます。特に、「おっぱいの形に近い、涙滴型(アナトミカル)のバッグのほうが自然な仕上がりになるのでは?」と感じるのは、ごく自然なことです。
確かに、机の上に置いた状態では、涙滴型のほうが見た目は”本物”に近いかもしれません。
しかし、実は、現在最も高品質とされるモティバ(Motiva)などの最新バッグが、あえて「まん丸」なラウンド型を採用しているのには、人体の構造を深く理解した、非常にクレバーな理由があるのです。
このコラムでは、その「まん丸」に隠された秘密を、専門医の視点から分かりやすく解き明かしていきます。
かつて存在した「涙滴型モティバ」とその欠点
あまり知られていませんが、実はモティバにも「アナトミカル型」いわゆる涙滴型のバッグが存在します。(現在、日本では正規販売されていません)
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モティバ アナトミカル
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モティバアナトミカル2
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モティバアナトミカル3
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モティバアナトミカル4
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このバッグは、理想的な釣り鐘型のバストを形成できるように、上部が薄く、下部にボリュームがあるメリハリのついた形状をしています。
しかし、この形状には一つの大きな欠点がありました。それは「体内で回転してしまうリスク」です。まん丸なラウンド型なら回転しても問題ありませんが、上下の形が決まっている涙滴型が回転すると、バストの形が崩れてしまいます。
その対策として、バッグの裏には組織に縫い付けて固定するための「タグ」まで付いていました。
最新の豊胸術が「固定された形」を選ばない理由
私たちのバストは、一日中同じ形をしているわけではありません。
ベッドで横になれば、重力に従って自然に外側に流れます。体を動かせば、それに合わせて柔らかく揺れ動きます。
しかし、バッグを筋肉に「固定」してしまうと、この自然な動きが失われてしまいます。横になってもバストが天井を向いたまま流れなかったり、ブラジャーで寄せても谷間が作りにくかったり…。これでは、せっかく美しくなっても不自然さが際立ってしまいます。
これが、専門医たちが「涙滴型」の導入に慎重である大きな理由の一つです。
最新ラウンド型バッグの秘密兵器:「形状記憶する、柔らかなジェル」
では、なぜ「まん丸」なラウンド型バッグが、自然な仕上がりを実現できるのでしょうか? その答えは、モティバの最新モデル「エルゴノミクス2」などに使われている、非常に柔らかく、かつ形状記憶性のあるジェルに隠されています。
- 1. エルゴノミクス2に比べてバッグが硬い
- アナトミカル型を維持するために、バックの厚みがあり、乳腺、脂肪の厚みがないとバストの仕上がりがかたくなります。
- 2. バッグが固定されることで動きがなくなる
- アナトミカル型バッグの回転を防ぐために、大胸筋に固定するとバッグの動きがなくなり不自然になることが予想されます。ベッドで横になったときに横に流れなくなるのはデメリットになります。
- 3. アンダー切開前提のバッグ
- 腋窩アプローチを希望される患者様が多い日本では、アンダー切開を初回から行うのは抵抗があると思います。
- 4. エルゴノミクス2でも立位では釣り鐘型のバストが可能。
- ラウンド型の通常のエルゴノミクス2でも、バスト上部に丸みは出にくく自然な仕上がりになります。
以上の理由から、あえてアナトミカル型を使用するメリットはあまりないように思えます。それだけ現行のラウンド型のモティババッグ、エルゴノミクス2の仕上がりが良いということですね。
実際に自分の患者様でよくある質問
Q、シリコンバッグの素材って、どれが一番いいの?
A、
ひとくちにシリコンバッグと言ってもさまざまな素材があるようですが、どの素材が一番いいのでしょうか?
シリコンバッグ豊胸がどのようなものかお知りになりたければ、ぜひ一度カウンセリングにいらしてください。
これまで使用されてきたシリコンバッグの素材には、生理食塩水(ハイドロジェル)(CMCともいう)がありました。しかし現在一般に使用されているのはシリコンバッグのみです。その理由は丈夫で、触りごこちが良いからです。
バッグの表面はシリコン製の膜でできていますが、かつては表面がツルツルしたものが主流でマッサージが必要でした。マッサージが不十分だと硬くなり、変形することがありました。現在は表面がザラザラしていてマッサージをしなくても軟らかくなるものが主流です。中身のジェルはコヒーシブといってグミ状で、ハサミで切っても外に出てきにくく、バッグが破損しても体に害を及ぼさないものになっています。(ただし定期的な検診は必要です)
カウンセリングでは実際に使用されるシリコンバッグを実際に手にとってそれぞれの感触を確かめていただいています。ただここで覚えていただきたいのは、豊胸術の方法はインプラントだけでなく脂肪注入やヒアルロン酸注入その他注入成分による豊胸もあるということです。豊胸術がうまくいくかどうかは、すべて医師の技術と経験にかかっています。
Q、シリコンは安全な素材ですか?
A、
シリコンと言えば、かつて発ガン性があるとか噂を耳にしたことがありますが、実際のところはどうなのでしょうか?
シリコンは、昔から医療材料として使われてきた安全な素材です。
過去、発ガン性うんぬんの話があったかもしれませんが根拠のない噂話です。シリコンは昔から人工関節や人工血管といった医療材料として、また身近なところでは赤ちゃんの哺乳瓶の口の部分にも使われてきた安全な素材です。
Q、コヒーシブやCMCバッグを取り扱っていますか?
A、
「コヒーシブ」や「CMCバッグ」の広告を見て、良さそうな素材だなあと思うのですが……取り扱っていらっしゃいますか?
見本としては用意しています。
ただし、CMCバッグ(ハイドロジェルまたはバイオクリアジェルともいう)を実際には取り扱っていません。それは、以下の理由からです。まず、CMCバッグについては人体にどのような悪影響を及ぼすかわからないため、現在その安全性が疑問視されており、欧米各国では使用中止命令が、日本でも形成外科学会から使用自粛勧告が出ています。
以前、CMCバッグをすすめていたクリニックのほとんどが、現在はシリコンを使用しています。また、コヒーシブとは「硬く結合した」という意味で、ハサミで切っても外に出てきにくく、バックが破損しても体に悪影響を及ぼさないので、現在は全てのインプラントがコヒーシブタイプです。
通常豊胸術に用いられるシリコン「ソフトコヒーシブ」を用いているので、触り心地はより自然で、破れたときにも外に広がる心配はほとんどありません。また乳癌術後にはハードコヒーシブを用いることによって皮膚が足りないときも、傷跡による引きつれがあるときも、皮膚を引きのばすことが出来ます。
Q、シリコンとCMC、どちらがいいでしょうか?
A、
ひとくちにシリコンバッグと言っても、いろいろな素材があるようですね。私は、シリコンかCMCにしようと思っているのですが、どちらがいいでしょうか?
検診のできるクリニックでシリコンを。
CMCは吸収性の素材なので、破れたとき体にしみ込みます。そのことによってバストがしぼむため、素人でも破損を早期に発見できるのが長所です。しかし、体が吸収したものが周囲にしこりをつくってしまうという大きな欠点があります。
一方のシリコンは、非吸収性の素材です。破れても体にしみ込まないので安心です。ただ、体に吸収されないため、破れていてもバストの大きさが変わりません。また低刺激性なので、痛みも生じません。
したがって、きちんと検診のできるクリニックでなければ、破損の発見が遅れます。結論として言えるのは、きちんと検診のできるクリニックで、破損しても安心なシリコンを入れるのが最善の選択だということです。
Q、テクスチャードとスムース、どちらがいいの?
A、
バッグの素材には、テクスチャードタイプとスムースタイプの2種類があるようですが、どちらがいいのでしょうか?その理由も教えてください。
テクスチャードタイプをおすすめします。
表面がザラザラした「テクスチャードタイプ」は、マッサージ不要。ザラザラしていることによって表面積が大きくなるためです。表面が周囲にできる被膜(傷跡組織によるカプセル)の容量が大きくなってマッサージしなくても硬くならないのです。一方、「スムースタイプ」は表面がツルツルしていて滑りがいいため、マッサージしやすいですが、マッサージが不十分だと硬く変形します。現在はテクスチャードが主流でスムースタイプは特注しないと手に入りません。
180度、裏表逆に裏返っているのを見つけたこともあります。(他のメーカーのアナトミカルですが)
つまりこれは、バッグの回転を防ぐために、大胸筋に糸で固定します。そのため、乳腺下法ではなく大胸筋下法で行い、バッグは移動しません。そのため、通常のラウンド型のモティバであれば、乳腺下のスペースをある程度動くため、ベッドで寝た時にも横に流れたり、ブラジャーでバッグを内側に寄せて、胸の谷間をつくることも可能ですが、アナトミカル型の場合には動きは期待できません。
バック自身の触感もラウンド型のエルゴノミクス2に比べると硬い感じがしました。
現状、アナトミカル型は入手困難ですが、ラウンド型でもデミタイプを選んでおけば、立位、座位では釣り鐘型のバストになるので、あえてアナトミカル型のモティバを探さなくてもよいと思います。 以上、院長の独り言でした。